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やさしさの条件◆真崎守『キバの紋章』

マンガ家の真崎守(まさき・もり)、ご存知ですか? 最近は新作を目にする機会もなく残念に思っていますが、70年代に彼の作品から影響を受けた人は多いと思います。

もともとは手塚治虫の虫プロ社員としてアニメなどの製作に携わっていましたが、その後、峠あかね名義でマンガ評論を雑誌『COM』に発表するようになり、やがてみずからも真崎・守(当時は姓と名の間に「・」あり)のペンネームでマンガを描き始めました。その当時は、青年マンガ雑誌を中心に活動を続けていたようで、中学生だった私はデビュー間もないころの作品にはリアルタイムで触れたことはありません。

真崎守をはじめて読んだのは、連作『ジロがゆく』からだと思います。はやりの劇画調というのでしょうか、カクカクした人物描写は、それまで慣れ親しんでいた手塚や石森章太郎のまるまっちい人物とは違い、違和感を感じたことを覚えています。このころから次第に活動の場所を少年誌に広げ始めた彼が、1971年に連載を開始したのが今回の名セリフの出どころ、キバの紋章』です。

『週刊少年マガジン』に1971年1月17日号から6月13日号まで、ほぼ半年間にわたって連載されたこの作品は、私に真崎守の存在を意識させてくれた衝撃的な作品でした。野生児キバ紋ことキバ狂児をめぐるミステリアスなストーリーや、後に真崎の最大の魅力となっていく言葉遊びの妙もさることながら、ただ突っ走るだけだったキバ紋が、かぐら獅子(当時大人気だったチャールズ・ブロンソンそっくり)やはぐれ狼、年上の美女・いづみなどいわくありげな脇役たちとの出会いの中で、成長してゆく姿に、高校生だった私は深くのめりこんでいったのです。

ラスト間近、すべての謎は明らかになり、それとともに生まれてはじめての喪失感を味わったキバ紋は、こうつぶやきます。

「やさしくすることはキバをもつことなんだ/ふたつは別々のものではなくて/ひとつでないといかんわけだ」

70年代初頭、「モーレツからビューティフルに」のコピーのもと、やたら「やさしさ」が喧伝されていた時代にあって、真の「やさしさ」とは「厳しさ」に裏打ちされたものでなければならないこと、表面だけの「やさしさ」は「甘え」の謂いであることを私に教えてくれた名セリフです。

今宵、ひとり酒場の片隅で夜光の杯を掲げ、「君のセリフに乾杯!」

■セリフの履歴

出典:『キバの紋章』(真崎守作画、『日本漫画家名作シリーズ』、さくら出版、1999年)

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