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これぞデカダン◆都はるみ「北の宿から」

今日の『朝日新聞』朝刊読書欄に、昨年8月1日に亡くなった作詞家の阿久悠に関する本の特集が掲載されていました。たしかに昭和時代後期の日本芸能史を語るにあたって、彼、阿久悠の存在とその作品なしで、この時代を語ることはできないでしょう。

当時、つまり私がテレビの歌番組にかじりついていた70年代中期から80年代にかけては、まさしく歌謡曲の全盛時代でした。ド演歌を歌う往年の歌手からスーツ姿の正統派、派手な衣装のアイドル、そしてジーンズにTシャツのフォーク・グループまで、ありとあらゆる年齢層、ジャンルの歌手たちが、「歌謡曲」というくくりで同じ番組で歌を歌っていました。Jポップどころかニューミュージックという言葉すら、まだ無いような時代でした。

阿久悠のすごいところは、そうした演歌からポップスまで当時の日本中に流れたありとあらゆる種類の楽曲に、つねに標準以上の作品を提供し続けたことです。アイドルだけに限ってみても、おもに「スター誕生」出身者の男女アイドルを中心に、それぞれの個性や成長の度合いに応じて、かつてのプログラム・ピクチャーよろしく3ヶ月に1作の割で作品を提供しています。ここにおいて、アベレージ・ヒッターとしての阿久悠の特長は、いかんなく発揮されているのでしょう(でも同じ「スタ誕」出身の山口百恵には1曲も提供していないのです、不思議ですね)。

ところで、阿久悠といえばピンク・レディーのメガヒットが連想されがちですが、彼の真骨頂と言えるのは、「大人」を対象にした「大人」の歌手への作品ではないでしょうか。

「あなた死んでもいいですか/胸がしんしん泣いてます」

恋に破れ、男に捨てられ、一人、厳寒の町で、こうつぶやく女の心情。失恋の痛手や、男への恨み、未練など、そういった心の傷すら凌駕した、諦念にちかいこのつぶやき。もちろん、こうつぶやく女には、死をほのめかすことで相手の男を脅そうという気持ちなどは毛頭ありません。だからこそ怖いのです。百万遍の恨み言を聞かされる以上に、この言葉を聞いた男は心底震え上がるに違いありません。

都はるみが歌う「北の宿から」の一節は、まさしくデカダンのきわみなのです。

セリフの履歴

出典:「北の宿から」(阿久悠作詞・小林亜星作曲・都はるみ歌唱、1975年)

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