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タバコのあった日々◆田中光二『汝が魂を翼にゆだねよ』

世の中、あいかわらず喫煙者へのバッシングが続いていますね。小・中学校では、授業で喫煙者は自分の健康管理もできないダメ人間で、害毒を平気でまきちらす極悪人であると教えられていますし、職場や公共施設では強制的な禁煙が求められています。本来、タバコは嗜好品の筆頭であり、みずからの判断で吸う、吸わないが決められていたはずなのに、嫌煙権という錦の御旗の下、喫煙者にとっては肩身の狭い毎日になってしまいました。

私は、高校生のタバコ初体験以来、かれこれ35年以上の喫煙者でしたが、2年ほど前にある事情からすっぱり止めてしまいました。ただ、止めたからといって、すぐに喫煙者を敵視する嫌煙論者に転向するつもりは毛頭ありません。よく、「止めてはじめてタバコの煙やにおいが気になり、よくもまあ、あんなに体に悪いものを常習化していたと思うよ」などとわけしり顔で口にする人がいますが、私は今でも喫茶店や酒場などでタバコの香りをかぐたびに懐かしい思いにとらわれます。

小説や映画の世界でも、最近の作品ではほとんどタバコを吸うシーンは無くなってしまいました。推理作家の綾辻行人が、近年、デビュー作『十角館の殺人(講談社、1987年)の改訂版を出すにあたり、そのあとがきで「この作品で描いたように当時の大学生は誰でもいつでもタバコを吸いまくっていたものだが、今になると隔世の感がある」みたいなことを書いています。大森一樹の映画『ヒポクラテスたち』(ATG、1980年)でも、医者の卵の医学生たちがバコバコ、タバコを吸ってましたね(伊藤蘭は「蘭」を!)。この20年間の風俗描写で最大の変化は、喫煙シーンの減少と、携帯電話の登場であることは間違いないでしょう。

「男にとって酒と煙草、そしてコーヒーは、自分の体で一生養って行かねばならぬ扶養家族のようなものである」

田中光二『汝が魂を翼にゆだねよ』で描いた、こうした男の格好良さ、ダンディズムは、もはや過去の遺物なのでしょうか。この頃の田中光二の作品には、SF的な素材やシチュエーションをハードボイルドな冒険小説仕立てにした傑作が目白押しです。名文の誉れ高い文章、詩的なタイトルともあいまって、私の大好きな作家でした。しかし現在では、先の名セリフと同じように、田中光二の作品も忘れられていくしかないのでしょうか。

今宵、ひとり酒場の片隅で夜光の杯を掲げ、「君のセリフに乾杯!」

■セリフの履歴

出典:『汝が魂を翼にゆだねよ』(田中光二著、『異星の人』〈ハヤカワ文庫JA100〉所収、早川書房、1977年)

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