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2011年9月

死者を見送る夏◆万里村ゆき子「夏のメモランダム」

今年、2011年。春から夏にかけてのほんの短い間に、私にとって大事な人たちが次々と亡くなりました。彼らと出会ったのは、1970年代――私が高校生から浪人を経て大学生だった頃。活動ジャンルはさまざまで多岐にわたっていましたが、私が彼らの作品やパフォーマンスから得たものは、今日にいたるまでの私の生き方、ものの考え方などに圧倒的な影響を与えてくれました。

亡くなられた方の名前を、時系列に挙げてみましょう。

田中好子(4月21日)、団鬼六(5月6日)、原田芳雄(7月19日)、中村とうよう(7月21日)、小松左京(7月26日)、前田武彦(8月5日)、ジョー山中(8月7日)……。

死者に序列をつけることは本意ではありませんが、彼らの中でも原田芳雄と小松左京の二人は別格です。

「原田芳雄のように生きたい。原田芳雄のように滅びたい」――ある一時期、私は心からそう願っていました。スクリーンの上で常に体制に牙をむき、既成概念に反発し、あれほどエネルギッシュでワイルドに輝いていた原田芳雄が、こうもあっけなく亡くなってしまうとは。最近の年齢相応の落ち着いた渋い役どころもいいですが、やはり圧巻は70年代を席巻したアウトロー=無頼の原田芳雄にトドメをさすでしょう。

演技者・俳優としての総括はこれから徐々に進んでいくことでしょうが、先日発売された雑誌『映画秘宝』10月号の特集記事「さらば、永遠のアウトロー/映画俳優・原田芳雄の軌跡」は、速報的な意味合いはあるにせよ、よくまとまっていると思います。整理されたフィルモグラフィを見ると、1968年のデビュー以来、最新主演作の「大鹿村騒動記」まで実に100本以上の映画とかかわりを持っていることがわかりました。まさに、「映画俳優」原田芳雄の真骨頂、生き様を見る思いがします。

ちなみに、私にとっての原田芳雄ベストは、主演作「赤い鳥逃げた?」「竜馬暗殺」、助演作「祭りの準備」やはり70年代前半の最もギラギラしていた頃の作品が、忘れられないようです。奇しくも亡くなる前後に、名画座シネマヴェーラ渋谷のATG映画特集上映で後者2作を見ることができたことを付記しておきます。

原田芳雄に関して忘れてはならないことがもう一つ。それは、「歌手原田芳雄」としての活動。いまや伝説となった1975年1月19日に新宿厚生年金会館大ホールで行われた「歌う銀幕スター・夢の狂宴」。ここで原田芳雄がジーンズに法被姿で登場し、ギター一本で歌った「プカプカ」「早春賦」「黒の舟唄」の3曲。あの夜、二階席の片隅で私は体中の毛が総毛立つような感動を覚えたものでした。定番の「プカプカ」や「黒の舟唄」もよかったけれど、特筆すべきは「早春賦」。文部省唱歌をあそこまでブルースしてしまう歌唱力と表現力には、もう脱帽でしたね。

ああ、それにしても今年の夏は、本当に多くの先達を見送る夏になってしまいました。そうした2011年の夏も、まもなく終わりを告げるのでしょう。死者への想いとともに逝く夏を送るには、万里村ゆき子のこんな詩がふさわしいのではないでしょうか……。

いま、夏が逝く。/若者の健康な四肢を灼き、内気な娘を情熱の女に変え、子供たちの果てしない夢に自然の輝きをあたえた、ことしの夏が逝く。/夕べ、突然の嵐がきて、一晩中荒れて去った。それは、きのうまでの海の色も浜辺のにぎわいも、みんなみんな連れていった。/怖いほどに澄みきった空を、鳥が飛ぶ。彼らも、ひとつの季節の終りを知っているのだろう。ゆっくりと、あたらしい秋に向かって羽ばたく鳥たちの中に、ぼくは確かに見た。/青春の白く美しい姿を朽ち果てた骨に変えてなお、飛行を続ける老いた一羽。それが、ぼくの未来の姿でないと、いったい誰れがいえるだろうか。

正統派のSF専門誌『SFマガジン』に、幻想的な内容ではあるけれども、新井苑子のイラストをあわせた女性詩人の連作が掲載されること自体、きわめて異例のことで、当時、ひどく困惑したことを覚えています。発売は1976年の夏――原田芳雄がスクリーンではじけていたのと同様に、田中好子はキャンディーズとしての絶頂期を迎えつつあり、団鬼六原作のSM小説は谷ナオミ主演で続々と映画化されていました。中村とうようは偏見のない音楽評を発表し、『日本沈没』でメジャーとなった小松左京は、「知の巨人」としての存在を確立していきます。不穏当発言で芸能界を干されていた前田武彦は雌伏中で、映画「人間の証明」の演技と主題歌でジョー山中が注目されるのはもうしばらくの時間が必要でした。

35年の月日の流れの果てに、この場を借りて、逝ってしまった彼らのご冥福をお祈りする次第です。

今宵、ひとり酒場の片隅で夜光の杯を掲げ、「君のセリフに乾杯!」

セリフの履歴

出典:「八月のメモランダム」(万里村ゆき子著、『SFマガジン』1976年8月号、早川書房、1976年)

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