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2013年9月

〈永遠〉につながる物語◆光瀬龍『たそがれに還る』

日本SF作家クラブ創立50周年を記念したアンソロジー『日本SF短篇50』全5巻が早川書房より刊行されています。クラブ創設の1963年から2012年までの50年間に発表されたクラブ会員の短篇小説の中から、各年を代表する作品を一作選び出し、しかも作家が重複しないように時系列に配列するという、壮大なコンセプトのもとに編まれた究極のアンソロジーです。1963年から72年の10年間――黎明と勃興の10年間に発表された作品を収めた第一巻冒頭に、光瀬龍の『墓碑銘ニ〇〇七年』が掲載されています。

光瀬龍は、いわゆる日本SF第一世代を代表する作家の一人で、叙情と虚無感に支えられた東洋的無常観をバックボーンに持つ、その個性的な作風から「宇宙叙事詩を語る吟遊詩人」と称されています。私のような世代にとっては、筒井康隆や眉村卓とならんで、学習雑誌での連載や書下ろし作品を多く手がけたジュヴナイル作家としても忘れられないSF作家です。

光瀬龍自身は1999年に亡くなっていますが、つい最近まで『SFマガジン』誌上に、立川ゆかりの手による評伝「是空の作家・光瀬龍」が連載されていました。この評伝は、作家としての履歴よりも愛妻家としての側面に光を当てた画期的な評伝となっています。これを機会に、光瀬龍の諸作品が見直されるようになればありがたいことです。

さて、光瀬龍には、のちに〈宇宙年代記シリーズ〉と呼ばれる一連の作品があります。先に記した『墓碑銘ニ〇〇七年』のように、タイトルの末尾に年号を付した短篇群がそれで、圧倒的存在の宇宙空間に進出していく人類の姿を、主に挫折と敗北の記録として描いています。――永劫の時間の流れの中にあって、人類とはいかなる存在なのか? このテーマに貫かれた各作品はそれぞれが独立したものですが、実は超未来の宇宙文明史家がまとめた通史の中のエピソードを、一つ一つ読み物化したというスタイルを取っているところも優れた着想だと思っています。

長編SF小説『たそがれに還る』(1964年)は、そうした光瀬龍の魅力が詰め込まれた私の大好きな作品です。太陽系外から迫り来る破滅の予兆に対処する人類の姿と、それを徒労とあざ笑うかのような宇宙と時間の絶対的存在……。

こう書いてしまうと、破滅に支えられた人類の歴史――ともすれば無常観や虚無感のみが前面に押し出されているように見えますが(もちろんそれも魅力なのですが)、第四章「星そして星」の一章まるまるを使って描かれた宇宙観はロマンに溢れたものです。私はここに光瀬龍の、もう一つの魅力を発見したのでした。

われわれ人類は、太陽系の中の一惑星にしばりつけられていて、それら星々をおとずれ、あるいは宇宙の果まで飛んで、自らの疑問をただしてくるなどということはとてもできない。たとえわれわれに翼があり、あるいは光より早く飛べたとしてもそれは不可能なわざである。しかし、石のごとくこの地球を離れられなくても、その心さえ自由ならばいつでもそれら星々はもとよりあるいは大宇宙の果までも自らの目で、自らの心でながめ考えることができる。それは難しい数式や巨大な観測装置など何一つ必要としない。ややもすれば生活の中に失いがちな柔軟な心、あるいは花を見、鳥や虫の鳴声に耳をかたむけ、夕映えの空に忘れていたむかしの事どもを想い起す心、その心が実は星々の語る物語を受け止める。
そこに永遠につながる一つの世界がある。

今宵、ひとり酒場の片隅で夜光の杯を掲げ、「君のセリフに乾杯!」

セリフの履歴

出典:『たそがれに還る』(光瀬龍著、『世界SF全集』30所収、早川書房、1970年)

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