« 〈永遠〉につながる物語◆光瀬龍『たそがれに還る』 | トップページ | 春にして君と……◆柴田翔『されどわれらが日々――』 »

時計台解放区にて(その1)◆芳谷圭児『高校さすらい派』

買ったままにしておいた小林哲夫『高校紛争1969-1970』(中公新書、2012年)をようやく読み終えました。

著者によれば、日本における高校紛争は、1969年から1970年3月の卒業式までをピークに、ほぼ全国的に起こったもので、紛争に関わった世代は、1951~52年生まれになるそうです。大学生による学生運動に比べ短い期間で終息を迎えるこの紛争を、著者は「のちになって「はしか」のようなものと揶揄されても仕方がないほど、高校紛争は短期間に起こった出来事であった。歴史に埋もれ、人々の記憶から薄らぎ、時とともに消えてしまうのも無理はないかもしれない」と評しています。実際、その世代にほんのわずかの差で遅れて生まれた私は、3年間の高校生活で「紛争」を体験することはありませんでした。

しかし、紛争を体験することのできなかった私でも、小説やマンガを読むことで、あるいは映画を見ることでそれを追体験することはできました。例えば、こんな風に……。

1970年――それは、青年向けの劇画雑誌はともかく、もっと下の世代を対象にしていたマンガ雑誌にいたるまで、高校紛争をテーマとした作品が掲載されていた時代でした。当時、私は小学館が発行する『週刊少年サンデー』を毎号購読していましたが、かつては手塚治虫や藤子不二雄の小中学生向けの作品が並んでいた誌面は、もう少し上の高校生を主人公とした作品や、より劇画色を強めた作品に取って代われれていました。ちなみに、手元にある1970年34号(8月16日号)のラインナップを見てみますと、掲載13本のうち7本が明らかにそうしたジャンルの作品であることがわかります。

石井いさみ『くたばれ!!涙くん』、梅本さちお『とべない翼』、ジョージ秋山『銭ゲバ』、楳図かずお『おろち』、さいとう・たかお『グループ銀』、望月三起也『夜明けのマッキー』、そして、芳谷圭児の『高校さすらい派』という布陣に、当時、『巨人の星』と『あしたのジョー』で大きく距離を離された『週刊少年マガジン』に対抗しようとするサンデー編集部の意気込みが感じられます。

そこで、『高校さすらい派』です。

舞台は、地方の進学校。学校側に反発し、学友からも孤立した勉、勇介、和子の3人は、ついに学校をロックアウト、校舎内に立て籠もります。和子への愛が届かないことを悟った勇介はみずから死を選び、血友病に冒されている和子は、機動隊が放つ催涙弾による負傷から命を落とします。

ロックアウトされた深夜の校舎屋上から飛び降りた勇介とガラス越しに視線を交わす勉。勉に抱きかかえながら死んでいく和子。自己保身だけの理由で機動隊を導入する校長。学校側の対応に憤り校舎に乱入する生徒たち。彼らを暴力で排除する機動隊。これでもかというくらいの勢いで描かれるドラマは、私を圧倒しました。それが権力者に対する悲憤慷慨であったのか、純愛を貫いた同世代へのシンパシーだったのか、敗れ去る戦いへの挽歌であったのかは、40年以上たった今では判然としません。ただ間違いなく感じたことは、何もできないまま、いや何もしようとせずに日常を漫然と暮らしている自分自身への怒りと焦燥感だったことははっきりしています。

原作は滝沢解、描いているのは芳谷圭児。ともに赤塚不二夫が主宰するフジオプロ劇画部の若いスタッフでした。このあたりの事情については、当時の赤塚番記者だった竹居俊樹の『赤塚不二夫のことを書いたのだ!!』(文春文庫、2007年)に詳しく書かれていますので、興味のある方はぜひお読みください。

封鎖が解かれ、騒然とする校内。その中を、和子を両腕に抱え、ロープで結んだ勇介を引きずりながら歩み去っていく勉……。砂丘を行く3人を見開きで描くシーンと、朽ち果てた廃船を1ページに描くシーンに、作品冒頭で掲げられたのと同じ文章がもう一度、繰り返されています。

いま旅立って行く
盲いた十六歳の老人
あてどなく地の果てまで
みずからを探し求めて
さすらうのだろうか…

かつてここに
ひとつの青春があった

今宵、ひとり酒場の片隅で夜光の杯を掲げ、「君のセリフに乾杯!」

セリフの履歴

出典:『高校さすらい派』(滝沢解原作・芳谷圭児画、『週刊少年サンデー』1970年29号~34号、小学館、1970年)

|

« 〈永遠〉につながる物語◆光瀬龍『たそがれに還る』 | トップページ | 春にして君と……◆柴田翔『されどわれらが日々――』 »

マンガ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/517638/55108907

この記事へのトラックバック一覧です: 時計台解放区にて(その1)◆芳谷圭児『高校さすらい派』:

« 〈永遠〉につながる物語◆光瀬龍『たそがれに還る』 | トップページ | 春にして君と……◆柴田翔『されどわれらが日々――』 »