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時計台解放区にて(その2)◆みやはら啓一『ぼくたちの伝説』

インターネットって、本当に便利ですよね。今回ご紹介するみやはら啓一のマンガ『ぼくたちの伝説』ですが、『週刊少年サンデー』に発表された際にリアルタイムで読んでいたのですが、その後、単行本に収載されたこともないようだし、インターネットで検索しても欲しい情報にはヒットすることはなく、もう一度、読むことは難しいとあきらめていました。

ところがある日のことです。発送の転換というか、ある考えが浮かびました。まさしく、天啓です。――そうだ、作品名だけで検索していたから限界があったのだ、掲載していた雑誌名で調べればいいのだ、と。

1970年の『週刊少年サンデー』に2号にわたって掲載されていてことは確実なので、神保町のマンガ専門古本屋で探したり、インターネットに登録している全国の古本屋で検索しました。その結果、二回目が掲載されていた11月8日号(46号)を、仙台の古本屋から購入することができたのです。残念ながら、初回掲載号、つまり45号はどこを探しても手に入れることはできませんでした。ただ、国立国会図書館に架蔵されていることが判明し、なおかつコピーサービスが受けられるとわかり、こちらは該当箇所のコピーという形で入手しました。

――という前置きのあと、ここからが本題です。

扉絵に「500万高校生にこの一編を捧げる」との、『高校さすらい派』と同じ献辞を掲げたこのマンガ『ぼくたちの伝説』は、「高校生シリーズ第2弾」として前後編2回に分けて連載されました。原作は、佐々木守。作画は、みやはら啓一。担当編集者は、『高校さすらい派』と同じ武居記者。前作が一定以上の評価、人気を得たからでしょうか、当時の看板マンガ『男どアホウ甲子園』の原作者の佐々木守に頼み込んだり、作画に新人のみやはら啓一を持ってきたりと、チャレンジ精神が感じられます。

佐々木守については、ここであらためて説明する必要はないでしょう。多くの映画、テレビのシナリオをはじめ、マンガ原作も少なからず手がけています。私にとっては、大島渚監督の盟友としてもお気に入りの作家の一人です。

一方、作画を担当したみやはら啓一。貸本マンガ出身だと思うのですが、私にとってはこの作品がみやはら初体験でした(のちに自費出版で刊行された『おおわれら三人+ワン』1972年)を古本屋で購入しています)。ちなみに、やはり好評だったのでしょうか、同じコンビで同じサンデー誌上に、男女高校生が一夜をともに過ごす小品を描いています(作品名、忘れてしまいました。どなたかご存知の方、いらしゃいませんか?)。

東大合格率日本一を誇る千早高校。東大入学を目指す3年生の麻生と岩渕。野球部のエース、九条。大学生活動家とも関係を持ち、学内オルグを画策する3年生の大倉。知恵遅れだが心優しい理事長の息子、大内。彼らが心惹かれる活発で物おじしない美少女、1年生の吉本若葉。

進学率維持のため管理体制強化をはかる学校側と、自由な学園生活に憧れる学生たち。悲劇が起こることはあらかじめ予想されています。野球部暴力事件をきっかけに校則を改正し、生徒たちを縛ろうとする学校側。その方針を受け入れ東大を目指すことこそ正しいとする岩渕。若葉への想いを封じ込めそれに従う麻生。闘争の先鋭化のための学外集会を目論む大倉。バリケード封鎖された学校で孤立していく若葉と、欲望の赴くまま彼女を襲う九条。

裏切りと挫折、純愛と性欲、理想と現実、不完全な闘争と厳しい敗北。バリケードは解除され、巻かれたアジビラは回収されてしまいます。みずからの手でアジビラを焼却することで、反省と従順を示すように求める学校側。屠殺場に向かう家畜の群れにも似て、高い煙突を持つ焼却炉に並ぶ生徒たちに冷たい雨が降りしきります。「つぎ!」。「つぎ!」。「つぎ!」。「つぎ!」……彼らが投げ入れる焼却炉の中で膝を抱えてうずくまる放心状態の若葉!!

泣くことを知らないきみ――
笑うことを忘れたきみ――
怒ることをやめたきみ――
憎しみを捨てたきみ――
それはぼくだ

恋することを知らないきみ――
愛することを忘れたきみ――
涙が出なくなったきみ――
それはわたしだ

乾いたアスファルトの街――
沈黙の風が吹きぬける街――
そんな街のぼくときみの間にひとつの伝説が生まれる
風のように
水のように
光のように
それは――青春の伝説である

そしてそれは疑いもなく
ぼくたち自身の伝説である

ガリ勉受験生も、部活イノチの運動部員も、政治活動にはしる運動家も、女の子に憧れる者も、誰もが私たちのまわりにいましたし、私自身のもう一つの姿でもありました。それが「伝説」となって語り継がれていくのならば、この世の中にこれ以上に哀しい伝説はありません。

今宵、ひとり酒場の片隅で夜光の杯を掲げ、「君のセリフに乾杯!」

セリフの履歴

出典:『ぼくたちの伝説』(佐々木守原作・みやはら啓一画、『週刊少年サンデー』1970年45号~46号、小学館、1970年)

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コメント

まんだよつお 様
小林哲夫より。
「高校紛争1969~1970」著者の小林と申します。拙著をお読みいただき、ありがとうございます。いま、高校紛争の分厚い記録集をまとめています。そこで、関連する漫画、映画などにも触れる予定です。「高校さすらい派」は漫画、映画ともに見たのですが、ほかに、まんださんが触れられているものは未見なものばかりです。恐れ入りますが、すこしお知恵を借りることができればと思い、連絡しました。
よろしくお願いします。

投稿: こばやし | 2014年12月 7日 (日) 20時00分

昨年末の「タモリ倶楽部」見ました。
面白かったですヨ、録画していたのでしばらく保存し*ます

投稿: ラジオぶた | 2015年1月17日 (土) 16時13分

みやはら啓一作品(70年代限定)のファンの一人です。『ぼくたちの伝説』は傑作でしたね。もうご存知かもしれませんが、高校生二人が一夜を送る話は『天使(エンジェル)の朝』で、下記「出発!青春記」(文華コミックス)に収録されています。『おおわれら三人+ワン』改め『不良少女グラフィティ』(これも傑作)と『明日に向かって走れ』『ナオ(旧題オリエ)』も載っています。もし未読でしたら是非。

http://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4821191296/ref=mp_s_a_1_24?qid=1454510015sr=1-24pi=CB192184409_AA75_QL70

投稿: 悟空 | 2016年2月 4日 (木) 00時03分

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