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また再びの道を行く◆山上たつひこ『光る風』

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いまさら、『光る風』もないでしょうと、笑っているあなた。そうですね、『週刊少年マガジン』掲載から45年、山上たつひこ『光る風』に対しては、もうさまざまな人がさまざまな場所でさまざまな感想や意見を発表していて、確かに言い尽くされた感じがありますね。それを百も承知で、取り上げたのにはワケがあります。

一つは、フリースタイルより完全版が、それも1900円という安価で出版されたこと。実は完全版は2、3年前に小学館クリエイティブから出版されていたのですが、なぜか同じ装幀でフリースタイルから再出版されたのです。事情はよく知りませんが、今、この時代に、より手にしやすい条件で世に流通することは歓迎すべきことでしょう。

もう一つは、前に書いたように、「今、この時代に」ということ。45年の時を経て、私たちを取り巻く環境や情勢は、驚くほど『光る風』で描かれた世界に近づいているようです。

ところで、このたび久しぶりに読み返してみて気がついたのですが(私は朝日ソノラマ版の単行本2冊を持っています)、結構ベタな内容なんですね。悪人・仇役は徹底的に悪人顔にデフォルメされているし、登場人物の名前は、すぐに誰をもじったのかがわかる、とってもわかりやすいネーミング。大杉や高村といった主人公の六高寺弦に影響を与える教師や彫刻家、戦場に送られる思想犯たちがの名前が松本新張(まつもとしんちょう)・尾田実(おだまこと)などといった具合。憲兵大尉は天勝(あまかつ)とくれば、ちょっと安易かなあと……。

初めて読んだ時にはものすごくショックを受けた、主人公の兄、光高の負傷後の姿。これが江戸川乱歩『芋虫』からヒントを得ていることを知ったのは、いつだったでしょうか。汚物のつまったパイプを抜けていく脱出シーンも、その後、どこかで読んだり見たりしたような……。

当局からの指示で中途完結を余儀なくされたと聞いている唐突な終わり方も、大風呂敷を広げ過ぎた挙句の「渡りに船」と邪推してしまったり(ごめんなさい)。多くの個性的な登場人物を有機的にさばいて、整合性を持ったストーリに仕上げていくには、まだ作者は若すぎて力量不足だったのではと思います。

読みなおしてみて、一番心に残ったシーンは、出征する光高に迫る弦の駅頭シーン。歓呼の声に送られ、「祝出征」の襷姿でそれに応える光高に、

「いっちゃだめだ! にいさん!」「にいさんたのむ!! 生きて…生きてかえってくれっ」「死ぬなよ――!!」

と胸ぐらをつかんで絶叫する弦。

弦の祈りどおり、光高は死ぬことなく生きて帰ってくるのです。ただし、無残な姿となって……。

私たちは、近い将来、このマンガのシーンのように、いや、かつて70年前にこの国で日常的に行われていたように、戦地に向かう人々を万歳の声で見送ることになるのでしょうか。その時、愛する人に対し、生きて帰ってきてほしいと声に出して叫ぶことができるでしょうか。

今宵、ひとり酒場の片隅で夜光の杯を掲げ、「君のセリフに乾杯!」

セリフの履歴

出典:『光る風』(山上たつひこ作画、フリースタイル、2015年)

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