« 2015年5月 | トップページ | 2016年6月 »

2015年11月

祈りは届いたのか◆石森章太郎『サイボーグ009』

石森章太郎の代表作『サイボーグ009』。今さら説明するまでもなく、1964年の連載開始から死の直前まで、多くの雑誌に発表場所を移しながら描き続けられた、誰もが認める石森章太郎のライフワークと言える長編マンガです。

調べてみると、最初の掲載誌は『週刊少年キング』1964年7月19日第30号。当時、小学校4年生だった私は『週刊少年サンデー』派だったので、おそらく友だちから借りて飛び飛びで読んでいたのでしょう。それでもその面白さは群を抜いていて、たちまち009ファンになってしまいました。

それまでの少年マンガのヒーローは、古くは月光仮面、伊賀の影丸はもちろん、鉄腕アトム、鉄人28号もそのほとんどが個人ヒーローでした。それが『サイボーグ009』は、いちおうは009こと島村ジョーが主役級の扱いは受けているものの、いざ戦う際は001から009までの9人の力を合わせての集団戦が原則になっていました。石森自身は後年、9人で1チームの野球チームからヒントを得たと語っていますが、この団体ヒーローという設定は、おそらく日本のマンガで初めてだったのではないでしょうか。加えて、9人それぞれのバラエティ豊かな設定の妙。国籍、性別、年齢を異にする9人が、それぞれの過去を背負いながら、特化された能力を駆使して敵と戦う(それも常に人体改造された運命を呪い、悩みながら)。確かに同時期に手塚治虫の『白いパイロット』がありますが、こちらはヒーローは複数でも個人技で戦うことはなく、皆でスーパーロケットに乗って戦うという全く違う設定です。

みずからの肉体を改造した死の商人「黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)」と戦い続けるサイボーグ戦士たち。サイボーグ研究所からの脱出とブラック・ゴーストとの決別を描いた「誕生編」に始まる彼らの戦いは、ブラック・ゴーストからの刺客との戦い(「暗殺者編」)、舞台をベトナムやギリシャに移した「ベトナム編」「ミュートス・サイボーグ編」を経て、最終決戦「地下帝国ヨミ編」に受け継がれていきます。

『週刊少年マガジン』1966年7月10日第27号から若干の中断をはさんで、翌67年3月26日第13号まで連載された「地下帝国ヨミ編」は、石森章太郎が文字どおり全身全霊を傾けて描き切った名作中の名作であることは間違いないでしょう。終了後も、読者や版元の要求で長く『サイボーグ009』は続いていくのですが、その後の作品がインサイド・ストーリーにすぎず、誤解を承知で言うならば、石森のご隠居芸にすぎなかったと思うのは私だけではないでしょう(ともに中断したままの「天使編」と「神々との闘い編」は別格)。特に死後、近親者の手で発表された「完結編」の酷さは目を覆うばかり。天才でもその才能は枯渇していくという悲しい現実をつきつけられました。

地上から地下へと延々と続く、サイボーグ戦士たちとブラック・ゴースト、そして地底国住民との三つ巴の戦い。とにかく面白いのです。大人になった今、あらためて読み返してみますと、構成の破綻など瑕疵は見られるものの、スピード感あふれるストーリー展開、ロングとアップ、コマ落としなどの映画的手法を駆使した画面作り、大胆なコマ割りなどに石森章太郎の才能が開花しています。何より悪役も含めて登場人物一人ひとりの描き分け、性格付けがみごとになされ、単なる戦いものの枠を越えているのには驚かされます。全編を貫く009とヘレン、004とビーナの恋。ニヒリスト004が初めて見せる人間らしい感情。成層圏に向かう002の格好良さととともに、主役を食う名演技でしょう。全身ウロコ状に再改造された008の苦悩、寡黙な005、最後に大活躍を見せる001、コメディ・リリーフとしていい味を見せる006と007。そして、胸に秘めた009への思いを口にする003。群像劇としても完成度は高いものになっています。

決着をつける最終章「地上(ここ)より永遠(とわ)に…」。ここに集約された石森章太郎の理想と願いは、発表から50年近くたった今でも、いや今だからこそ、それを読む私たちに感動を与えてくれます。

「「黒い幽霊団」ヲ殺スニハ、地球上ノ人間ゼンブヲ殺サネバナラナイ!
ナゼナラ「黒い幽霊団」ハ人間タチノ心カラ生マレタモノダカラダ
人間ノ悪ガミニクイ欲望ガ作リアゲタ怪物ダカラダ!」

ブラック・ゴーストの正体、三つの脳がうそぶくように、50年経った今でもブラック・ゴーストの細胞は生き残り、世界中で憎悪のタネを蒔き続けています。それは世界征服のためという単純な目的のためではなく、民族的対立、宗教的対立というより根源的な、より根深い複雑な様相を呈しています。

マンガ史上最も美しいラストシーンと謳われた「地下帝国ヨミ編」の名セリフが私たちに残した祈りは、はたして世界中の人々の心に届いたのでしょうか。

「あたし?
あたしはね
世界に戦争がなくなりますように……
世界中の人がなかよく平和にくらせますようにって……いのったわ」

今宵、ひとり酒場の片隅で夜光の杯を掲げ、「君のセリフに乾杯!」

■セリフの履歴

出典:『サイボーグ009』7(石森章太郎作画、『SHOTARO WORLD』045、メディアファクトリー、1999年)

注:後年、石森章太郎は「石ノ森」と改姓しますが、今回の表記は作品発表時の名前をそのまま使用しています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2015年5月 | トップページ | 2016年6月 »